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横浜地方裁判所 平成7年(ワ)1565号 判決 1995年11月30日

横浜市旭区柏町五八番地の一

原告

河野礼通

東京都千代田区霞が関一丁目一番地一号

被告

右代表者法務大臣

宮澤弘

右指定代理人

斎木敏文

高野博

田部井敏雄

北川益雄

池上照代

中澤彰

木村忠夫

上田幸穂

山本善春

大平欽哉

盛岡哲雄

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、金二〇八七万円及びこれに対する平成四年五月二五日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、訴外保土ヶ谷税務署から平成二年分及び同三年分の所得税の調査を受け、同税務署長(以下、本件税務署長という)は、平成四年七月二九日付で平成二年分について減額の更正処分を、平成三年分について所得税の決定処分及び無申告加算税賦課の更正処分をした。

2  原告は、平成三年分について本件税務署長がなした前記1の処分は違法であるから取消すべきであると主張して、異議手続を経て国税不服審判所に審査請求をした。

3  国税不服審判所長は、平成七年一月一八日付で本件税務署長がなした処分の一部を取消す旨の裁決をした(以下、本件裁決という)が本件裁決は次に述べるとおり違法である。

すなわち、原告は、横浜市港北区柏町五八番一所在の土地を所有したことも、売却したこともないのに、国税不服審判所長は、本件裁決において、右土地の譲渡を原告の所得として認定し、本件税務署長の処分を取消して、「新たに更正処分」を課した。本件裁決は、「架空の売上げ」にかかる所得を原告に帰せしめるものであるから違法である。

さらに、本件税務署長は、「架空の売上げ」にかかる所得を原告に帰せしめた場合、原告の利益分として、原告の銀行預金口座に入金されるべき還付金合計金二一三万六九〇〇円を右口座に入金せず、同口座から引き落としたのと同視される違法行為をして原告から右金員を搾取した。

4  原告は、被告の職員である本件税務署長及び国税不服審判所長の前記3の違法行為によって、次の損害を被った。

(1) 本件税務署長は、前記の「架空の売上げ」に対する所得税金一〇八七万円(前記還付金二一三万六九〇〇円を含む)を違法に搾取し、原告は右同額の損害を被った。

(2) 本件税務署長及び国税不服審判所長の前記3の違法行為により、原告は金一〇〇〇万円相当の精神的損害を被った。

5  よって、原告は被告に対し、国家賠償法一条一項に基づき、損害賠償として金二〇八七万円及びこれに対する還付金が原告に還付されなかった後である平成四年五月二五日から商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求の原因第1、第2甲は認める。

2  同第3項中、国税不服審判所長が平成七年一月一八日付で本件税務署長がなした処分の一部を取り消す旨の裁決をしたことは認めるが、本件裁決が違法であるとの主張は争う。

3  同第4項は争う。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因第1、第2項の事実及び同第3項中、国税不服審判所長が平成七年一月一八日付で、本件税務署長がなした処分の一部を取消す旨の裁決をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、本件税務署長及び国税不服審判所長の不法行為の成否につき判断する。

1  原告は、本件裁決は、以下に述べるとおり、「架空の売上げ」にかかる所得を原告に帰せしめるものであり、違法であると主張する。

すなわち、国税不服審判所長は、本件裁決において、横浜市港北区柏町五八番一の土地(以下、本件土地という)の譲渡による所得を原告の所得として認定し、新たに更正処分を課したが、原告は本件土地を所有したことも売却したこともないので、本件裁決は、「架空の売上げ」にかかる所得を原告に帰せしめるものであるから違法であると主張する。

しかしながら、成立に争いのない乙第一、第二号証によれば、国税不服審判所長は、本件裁決をするにあたって、「横浜市旭区柏町五八番一」と記載すべきところを、誤って、「横浜市港北区柏町五八番一」と記載したため、同所長は、平成七年二月七日付で、右の誤記を訂正するため、「裁決訂正書」を原告に送達したこと、原告は、平成三年三月一二日付で本件税務署長に提出した「譲渡内容についてのお尋ね」と題する書面によると、原告は、「横浜市旭区柏町五八番一」の土地を売却したこと、以上の事実が認められ、右事実によると、本件裁決が「架空の売上げ」に基づいてなされたとの原告の主張は理由がない。

2  原告は、新たな更正処分をしたと主張するが、成立に争いのない甲第五号証によると、本件裁決は、本件税務署長が、平成四年七月一九日付でなした原告の平成三年分所得税にかかる更正処分の一部を取消したものと認められ、右の事実によれば、本件裁決は、「新たに更正処分を課した」ものとはいえない。したがって、この点に関する原告の主張は理由がない。

3  原告は、本件税務署長が、「架空の売上げ」にかかる所得を搾取したと主張するが、本件裁決は「架空の売上げ」に基づいてなされたものでないことは前記認定のとおりであるから、これを前提とする右の主張は理由がない。

その他、本件税務署長が原告から違法に搾取したことを認めるに足る証拠はない。

三  以上の次第であるから、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないので、これを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとお判決する。

(裁判官 日野忠和)

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